Seasick Steve その2
< 2008. 11. 14 @ Le Cigale, Paris >
さて、今年も恒例の Brit Award のノミネーションが発表された。
今回選ばれた顔ぶれを見てみると、まあハッキリ言って低調である。British Group 部門では、Coldplay や Radiohead、Take That に Girls Aloud などなどであって、誰が勝ってもあまり面白みのあるものではない。過去一年いろいろなバンドが活躍していたような気がしないでもないのだが、冷静に振り返れば一部の新人バンドを除いてそんなに際立った一年でもなかったのかと思う。
そんな中で唯一目を引いたのは、International Male Solo Artist 部門にノミネートされた Seasick Steve であろう。なんといっても他のノミネートが Beck、Niel Diamond、Jay-Z、Kanye West といった、あからさまにとってつけたような大物ぞろいの中で、世界的には際立って無名の爺さんがその一人に選ばれたのである。数日前に見た Sky News の Brit Award レポートでも、やはりというか真っ先にインタビュー映像が映し出されていた。
インタビューアーが「ブルースマンがこのブリット・アワードにノミネートされるのは、たいへん珍しいかと思うんですけど、どう思いますか?」との問いかけに、「いやあ、もうなんちゅうか、オレなんかがさあ。」とこの爺さんは満身の笑みを浮かべてウッシッシ、というかむしろテレていて、とてもかわいらしかったのである。
前回彼のことを取り上げたときには、「もう観ることもないだろう」的なことを書いたが、先日機会があって、再度この爺さんのステージを最初から最後まで堪能する機会にここパリで恵まれた。オレにはこういったアメリカンブルースには興味も知識もまったくないのだが、今回はステージ上の彼の姿をクリアに見ることができたからだろうか、この齢(よわい)70近いブルースマンの魅力というものがすこしわかったような気がしてきた。
このおっさん自身の流転の人生を歌い上げる力強いブルースの数々はもちろん、女性客をステージに上げて花一輪を手渡しながら歌いかけるステージ運びや、演奏後観客のスタンディングオベージョンに応えてオーバーオール・ジーンズの両ひざあたりを左右の手でつまんで広げてプリマドンナのように一礼するチャーミングなしぐさ。今回予期せず観たステージではあったが、かなり楽しめたのであった。
アメリカでの放浪を経て後年から現在に至っては奥さんの住むノルウェーで隠遁、そんな時期にUKを皮切りにヨーロッパでヒットするとは文字通り夢にも思わなかったに違いない。実際アメリカの南部にいけば、われわれの知らない「つわもの」ブルースマンがそれこそ山のようにいるに違いないことをわれわれはなんとなく知ってはいるわけだが、Seasick Steve をここヨーロッパでブルース・ヒーローと呼んでもいいじゃないか、とまあそんな気がした夜であった。でも、じいさん売れてよかったな。
2月18日に発表される Brit Award の本選で万が一にもわれらが爺さんが選ばれれば、Jay-Z もビヨンセもびっくりであろう。「誰だそりゃ?」と。いやむしろ、彼らからしてみれば、Brit Award 自体が「なんだそりゃ?」である可能性が高いわけなので、ここはイギリス人にも意地を見せてもらって英国ならではの「International Male Solo Artist」を選び出してほしいものだと考えている。
@ Le Cigal
客席からステージに上げた若い女性(おそらく別のアーチストを観に来たヒト)に切々と歌いかける船酔い老人。でもカッコよかったよ。




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