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2009年2月

2009年2月18日 (水)

Soko

< 2008. 11. 14 @ Le Cigale, Paris >

過去自分が見た映画作品の中で、鑑賞後一番いやな気持ちになったのは、『悪魔の毒々モンスター』や『死霊の盆踊り』などといったとんでもないZ級ホラーをはるかに凌駕して『ベティ・ブルー』というフランス映画であった。

「ベティ」という情緒不安定で病的なまでに気性の荒い女性が主人公のこの映画は、たいへん悲惨な結末をもって終了するのだが、オレがこの「名作」を受け入れがたいのは、単にその後味が悪いからだけではない。作り話とはいえ、こんなやつらがいてもおかしくないことになっているフランスという国に対して背筋が寒くなってしまうからである。

パリに引っ越してきて以来、幸いなことに今までは、「ベティ」のように突然かんしゃくをおこして相手の手をフォークで刺したり、自分の目をくりぬいたりするフランス人には出会っていないので、なんとかフランス人ともぎりぎり仲良く暮らしていけるのではないか、と思いはじめてはいる。しかし、ちょっとでもヤバそうなヤツをみかけると、『ベティ・ブルー』の恐怖が頭の中によみがえり、この街で暮らしていく自信を失いそうなるのであった。

さて、先日のエントリーで紹介した Ladyhawke 。彼女がめくるめくパリのナイトライフ体験を元に作った [Paris is Burning] 。このとき Ladyhawke を夜な夜な街中に連れまわしたのが Soko というフランス人女優兼シンガーである。www.myspace.com/mysoko 

ミュージシャンとしての Soko は曲調はフォーク系なので、二人の間に音楽的嗜好の共通性は薄い。だが、昨年 ('08) の初頭にかけて欧州域内で話題になってきた新進の女性ミュージシャン同士として意気が合ったのだろう。この年の Great Escape '08 には両名とも女性インディ系のホープとして顔を連ねていた。Soko は田舎(ニュージーランド)出身のこの「友達」に、パリのスペクタクルな夜遊びをおしえたのである。果たして、そのときの驚きをあらわした曲が Ladyhawke の出世作とあいなった次第である。

そんな Soko を偶然観る機会があったのだが、オレの苦手なギター弾き語りではなくバンド編成だったので、フォーク系はオレの得意分野ではないがちょっぴり期待しながら開演を待った。しかし、出てきた彼女の演奏を聴いて、オレは正直かなりイヤな気分になってしまったのだった。

見た目はニコニコ笑ったり、急にブスっとしたりはにかんだりの「不思議ちゃん」系の女性という感じなのだが、まあそれはよい。だが、演奏し始めた曲を突然自分から止めてしまってブツブツと独り言をいいながらもう一度演奏しなおす姿とそれに振り回されるバンドのみなさん。あるいは、演奏を始めるかと思いきや、突然自分の持つギターをドラマーに押し付け、困っているドラマーを押しのけて自分がドラムを叩きながら歌い始めたり。全体として、まったく散漫な印象のうちに彼女のステージは終了してしまったのである。

これはこれで、こういった類のキャラクターを持つミュージシャンを好きなヒトもいるかもしれないが、オレはイヤだ。オレはこういうやつとは友達になれない気がする。ヒトの言葉の機微を読み取れない「アスペルガー症候群」の Ladyhawke とはまったく対極の意味で、相手のことまったくおお構いナシの Soko 。だから友達になれたのか?いずれにしろ、そのときは思わなかったが、こういった性質が悪化してくると「ベティ・ブルー」にもなりかねない、フランス人という恐るべき人々に日々オレは囲まれていることをある日無理やり思い出さされ、ちょっと気が滅入った。

さて、「無理やり思い出さ」せてくれたのは、↑上に付けてある彼女の MySpace ページに行ったからである。

そこに行ってもらうとわかるが、名前は Soko ではなく Soko is Dead (Soko は死にました)となっている。先月の中旬、アメリカかオーストラリアのツアー中に突然「ミュージシャン辞めました」宣言をしたらしい。以来、いままで MySpace のページに貼られたであろう彼女の情報が一切なくなっているようだ。「友人」として貼り付けてあるのは数年前自殺した故 Eliot Smith ひとりである。今日にいたるまで、彼女のそのページには「冗談でしょ!?辞めたなんていわないで!」というファンからの悲しいメッセージが連なっているのである。

詳しいことはわからんが、おそらくアメリカ人になんか言われたとか、何かの事情でアルバム発表にいちゃもんがついたとか、音楽業界に嫌なやつがたくさんいたとか、たぶんそんな感じらしい。キレてしまって自らミュージシャンとしてのSoko に終止符を打ったと受け取るべき状況のようである。仮にそうだとしても、あまり穏やかな消え方ではなさそうだ。なんとなくだが「ベティ」のようにわめき散らしているか、呆然と中空を見つめているような気がして、すこし怖くなってしまった。

彼女の出世作が [I'll Kill Her] (デンマークなどでヒットチャート1位)というタイトルであることを思い出し、ぜひとも成仏してあまり現世にお恨み申し上げないでほしい、と思った。女優に戻ると言うはなしだが、万が一にも「ベティ・ブルー」のリメイクには登場しないでください。

Soko

@ Le Cigale

ご冥福をお祈りいたします。

Soko_2

生前のホトケさん。

「恨み節」

2009年2月13日 (金)

Ladyhawke

< 2009. 02. 12 @ Nouveau Casino, Paris >

そのむかし「ロンドンは燃えているぜ!(London's Burning)」と絶唱したのは故ジョー・ストラマー氏だが、当時高校生であったオレにはいったいどれくらいスゴイ燃え方なのか、想像すらできなかった。世間に対する不満と退屈が鬱積(うっせき)した不良の集団が夜な夜な街中を闊歩している姿を思い浮かべるだけでかなり失禁してしまいそうな恐ろしさではあった。

月日は流れて昨今。不況だ不況だと騒がれる前からパリは実際に燃えていた。近年、年の瀬が近づくと、パリ周辺のいわゆる「郊外」と呼ばれているエリアでは、失業率の著しく高い移民系の若者が中心となってその辺に停めてある自動車に火をつけ、何千台単位で燃やすのである。もちろん、パリ市内でもクルマは燃やされる。大統領のサルコジは激怒するが、どうにもならない。社会の底辺に押し込められた奴らの、怒りにまかせた集団暴動である。とても先進国とは思えない無法ぶりだ。そしてオレは今、そんなアツいパリに暮らしているのである。

そんなおり昨年後半にかけてイギリスでヒットした[ Paris is Burning (パリは燃えているぜえ!)]。唄うはニュージーランド出身のLadyhawke こと Phillipa "Pip" Brown だ。www.myspace.com/ladyhawkerock , www.ladyhawkemusic.com 彼女はかつて初めて訪れたパリで、街が燃え上がるさまを目の当たりにし、その驚きで曲をしたためたに違いないのであった。

ところで、神奈川に住む友人から聞いた話だが、むかし名優のバンジュンこと伴淳三郎が亡くなったその直後、神奈川TVで彼の出演しているCMがまだ流されていたらしい。それは箱根かどこかの温泉のCMで、湯船にどっぷりつかった伴淳が、至福の表情で「ああ~、生き返るわあ~。」と言うものらしく、当然ながらその友人は腰を抜かしたそうである。これを見た人は、故人にキチンと成仏してくれるよう、TVに向かって手を合わせたに違いない、と思う。

もちろん Ladyhawke [ Paris is Burning ] はパリ郊外の暴動を歌ったものではまったくないのだが、この曲のヒットがヨーロッパ大陸に広がるにつけ、唄のタイトルを聞いたパリの人々は皆こぞって「えええっ?!オラのクルマ燃やさないでくださいまし、なんまんだぶなんまんだぶ・・」と手をすりあわせたに違いないというのがオレの立てた仮説である。

ま、そんなことを確かめようと彼女のパリ公演を観にでかけたのであった。場所はくしくもオレにとって Friendly Fires が彼らの出世作 [Paris]  を演奏するのを初めてパリで観たのと同じ Nouveau Casino というべニューであった。ここは彼女もお気に入りのライブハウスらしく、「新進のクリエイターたちが集まるカルチェ」というあからさまに怪しい形容詞がついてから久しいオベルカンフというエリアの中心に位置する。おそらくこれまでの人生、基本的には羊に囲まれて暮らしてきた彼女が初めて訪れたパリのおしゃれエリアで舞い上がってしまった様子があますところなく、しかも正直に書き上げられたのがこの [ Paris is Burning ] という名曲なのである。

実際の彼女はアスペルガー症候群(知的障害のない自閉症の一種)という診断をされているそうなのであまり変な言い方もできないのだが、オレは彼女が「オタク道」を追求する姿をポジティブに評価したい。仮に心の病だとしても、その「偏執」性がミュージシャンとしての良い結果に結びついているのだと思うし、観客とのコミュニケーションは彼女自身にとっても癒しになるのではないか。想像どおり派手さはまったくないステージだったが、彼女が「ワッカワッカ」ならすギターリフや男性っぽい唄い方の表情など、高得点を差し上げたいと思った。

もちろん Ladyhawke の真骨頂はその曲の良さにあるので、CDで聞くだけでも十分というミュージシャンに分類されてしまう恐れもあるのだが、一度ちかくで観ておいて良かった。ステージ最後の曲で[ Paris is Burning ] が演奏されると、パリの若者たちも大絶叫で大喜びだった。だがしかし、ここからちょっとばかり離れたエリアでは、今この瞬間もクルマを燃やしているマグレブの若者がいるかもしれない、と思うと、ちょっとだけ複雑な気がしないでもない。パリもいろいろなのだ。

Lh1

@ Nouveau Casino

彼女のセルフタイトル・アルバムはオレの愛聴盤だ。ゲイリー・ニューマンからキム・ワイルド、ヴァン・ヘイレンまで80年代サウンドの黄金期に影響を受けた音が懐かしくも今あたらしい。日本人には荻野目洋子か渋ガキ隊にしか聞こえない曲の宝庫でもあり、そのへんがグッとくるのであった。

● コメントありがとうございます。返信できないので追記します。

ににさん、イギリスにおかえりなさい。UKツアー、軒並みソールド・アウトみたいですね。KOKO前はダフ屋が出ないことも多く、ちょっとだけ心配です。出てたら出てたで少し怖いヒトが多いのは、日本もイギリスもおんなじですが。

そういえば大昔、東京でブライアン・フェリーのコンサートに出かけたのですが、道すがらダフ屋のジイサンが近寄ってきました。「さあお兄さん、ブライアン要らないかい?ブライアンあるよ~。」 ブライアン・・・・・誰のことか、まったく分かってないよね、じいさん・・・。 間違ってはいないけど、かなり脱力したまま開演をむかえました。

2009年2月12日 (木)

Coldplay

< 2000. 06. 19 @ The Scala, London >

< 2000. 10. 22 @ Shapherds Bush Empire, London >

さて、先日グラミー賞が発表されたが、いまやこの賞の常連になりつつあるコールドプレイが最優秀楽曲賞などを受賞したとのことである。

われわれは常々友人たちとビール・グラスの泡を飛ばしながら、「今年のBRIT AWARDの受賞基準はおかしい!」とか「今回マーキュリーの審査員はトチ狂ったんでねえの?」などと、まったく生産性のない与太話に花を咲かせているわけだが、このグラミー賞の選定に限っては自分ら素人の評論をまったく寄せ付けないだけの気迫が感じられる。曲の良し悪しは選定基準にまったく関係ない、という点において一ミリの迷いも感じられないからである。その迫力には畏敬の念を禁じえないし、論評の対象とすること自体失礼である。もはやグラミー賞とはU2とかコールドプレイのようなバンドに与えられるべきものであって、個々の受賞曲はたまたま新曲である、ということだけが条件である、ということをみんなが前提としてわかっているところがスゴイ。

もちろん、U2はグラミー賞をとるず~っと以前にいくつものよりすばらしい作品があったことを皆知っている。コールドプレイにしても彼らのベストな楽曲たちは、今回や前回のグラミー受賞作ではなくてずいぶん初期の作品であることをみんなわかっているわけだ。それはいい。それがグラミー賞なのだから。

オレの質問は、だとすると、受賞する本人たちはもしかして昔の佳曲よりも今回の受賞作のほうが良い曲だなどと勘違いしている可能性は実際無いのだろうか?ということである。コールドプレイもイギリス人なので、あんまりグラミー賞をありがたがってもいないように勝手に想像しているわけだが、受賞してしまった以上、万が一にも「おっ?てことはあの曲けっこうスゴかったってこと?」などと思っていたりすると、ちょっとだけ寂しい気がする。ミュージシャンの成れの果て方として・・・・。

もちろん、このさきのオレの人生にはまったく何の関係もないバンドではあるのだが、こんなオレでも昔彼らを見に行ったことがある。 [Yellow] 発売直後の Scalaは残業で前売り券を無駄にしたが、数ヵ月後の Shepherds Bush Empire では2階席の一番前というベストポジションを早めに会場入りしてキープした。期待はそんなにしていなかったが、意外と楽しめたライブであった。そんな一期一会があるので、今後いくら何を受賞してもかまわないけど、「俺達って、曲作りも今が絶頂?」などと悲しい勘違いだけはバンドのみなさんにもさせないでほしい、とグラミーのヒトにもお願いしたい。たぶん(よく知らないけど)ライブステージの演出効果とか、アクティビストとしての活動とかでは今が一番油に乗ってるんだろうし、それで評価されてるってことで十分いいじゃないか。イイってことで、バンド自身も納得してくれ。

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