« 2009年4月 | トップページ | 2009年6月 »

2009年5月

2009年5月26日 (火)

The Virgins

< 2008. 11. 14 @ Le Cigale, Paris >

たびたび書いたことではあるが、オレは否定しようのないオヤジサラリーマンであり、会社ではたいがい人並みにスーツを着用している。スーツとはいってもアルマーニとか、なんかそんな「ちょいワル」なものは着ないぞ。はずかしいし。ロンドン時代から日本人駐在員ご用達のアクアスキュータムとか、バーバリーとかの、そういった手の施しようのない「オヤジブランド」のスーツを、しかも郊外アウトレットで中国人を押しのけながら買っているのである。

「たいがいスーツ着用」と書いたのは、週のうち1日ほどはもうすこしラフな格好で出社することがあるからだ。お客さんのところに営業に行かない日、社内で書類作成だけしていることがあらかじめ分かっている日だと、面倒なこともあってややカジュアルな格好で出社するわけだ。で、こういったときに「外出着」として何を着用していくべきか、ちょっと考えさせられる出来事があった。

だいたいオレのカジュアル「よそ行き」スタイルというのは、他に服がないということもあって、ライブ道の出動スタイルと大体大差ないのが通例であった。ある日オレがカジュアル着出社をしていたら、マーちゃん(社内の日本人バイトの青年)から声をかけられた。「funfa77 さんは、今日の服とか、カジュアルなものは大体いつもどこで買ってるんですか?」

オレは間髪をいれず、「ん?今日のは、えーと、 Topman (トップマン)かな、 Top Shop の。あと古着とか・・・。」と答えたのだが、端正なマーちゃんの顔がとたんに曇った。

「・・・・・。 あのう、ちょっとやばくないすか?失礼ですが。」と申し訳なさそうにこっちを見る彼。「な、何が?」と答えるオレに対してマーちゃんはきっぱりと言い切った。

Topman は大人が着ちゃだめですよ。あれは若者が着る服であってお金がある大人が着ちゃいけないんですよ。」

そういってきびすを返して去っていった彼が、普段から着用しているのはディオールやプラダである。なんでそんなお金あるの、マーちゃん?ということは置いておいて、オレはそんなにお金もないので Topman を着ているのではあるが、 若者ではないことだけは自信を持っていえる。とはいえオレはTop Shop 自体がそもそも大好きなのであった。悪かったな、マーちゃん。

Top Shopは日本にも有るのでご存知のとおり「有名デザイナー」のパクリが基本のハイストリート・ショップの大チェーンだが、男性ブランドの Topman のほうはUKでは各種音楽イベントにも協賛しており、「若者」の普段着、つまり若い連中が音楽を観にいくときのきわめて標準的なスタイルを常々提供してくれているのである。オレは有名デザイナーの模倣品にはあまり興味がないが、ライブハウスに出かけていくときに、オレのようなおっさんでも比較的違和感なくなじめるように見えるアイテムを普段からカジュアル用として買っている。もしかするとさすがの Topman の洋服も、オレが着ると「違和感」がありまくる可能性も否定はしえないのだが、それでも他に選択肢はすくない。普通の若者ブティックだといろいろな意味で緊張して入りづらいし、そもそも入ってみないとどんな服が売っているかわからない。そこへいくとオックスフォード・サーカス(ロンドン)近くの Top Shop は巨大すぎてオレが「若者服」を物色していても、誰からも不審がられない。・・・はずだと思いたい。

そんなわけで、マーちゃんのこころない発言ぐらいではオレの Top Shop に対する信頼感は揺るがない。ライブ会場で周りの若者達があらかたそういった格好をしている、というきわめて「日本人」的安心感もあるのだが、なんといってもステージに立つミュージシャン自体、そうした Top Shop +古着のスタイルに毛の生えたような格好をしている連中が多いので、たぶんセンス的にそんなに間違っていないのだろう、というのがオレの見立てである。

こうした、多少やわなところのある自信が多いにぐらつきそうになるのは、ステージで観たバンドのいでたちが、センス的にオレの想像力を完全に超えていた場合だ。しかもビミョーながらも Topman スタイルの流れを汲んでいるような時はなおさらだ。こっ、これはオトナとして真似ができないし、してはいけない・・・。でもこれが今の若者の格好なのか、ホントウに?しかし、ここで一度ビビッてしまって受け入れられないと、もう二度と「若作り」の世界に戻ってこれなくなってしまうのではないか?オヤジにとっては最後通知のような、そんな葛藤が突きつけられてしまうのである。このままではマーちゃんの思う壺だ。

半年ほど前だが、オレのアゴが落ちるような格好をしてステージに現れたのが、このところ活躍中のアメリカ人、 The Virgins の面々であった。www.myspace.com/thevirginsnyc  www.thevirgins.net

音の方はオレの琴線にかすりもしなかったが、そのファッション・スタイルには目が釘付けになった。「音」も「ファッション」もオレから見るとどうしょうもないものであったが、「音」の方はもうこのバンドを今後無視すればいい。しかし、「服装」のほうは、これがこれからのスタンダードのなってきたらと考えただけで、もはや気が気ではなくなってきた。たとえて言うと、メンバーそれぞれこんなカンジである。

●巨大ぶかぶかロングTシャツの上に、丈の短い「ピッタリ」カーディガンのボーカリスト。しかし案配がよくないのか、カーディガンはすぐに脱ぎ捨てられた。こういう無理やりなサイズ違い合わせはオレには新しすぎて、目がしぱしぱした。

●ベーシスト。足首から上は変哲のない格好だが、右足赤スニーカー・左足青スニーカーでしかも光沢のある素材。ジーンズは折り曲げて靴がよく見えるように。むかし田原俊彦が左右色違いの靴をはいていたときは、全身気の狂ったようなコスチュームだったので違和感がなかったが・・・。

●ライダー革ジャンの黒装束ギタリストは、同じく足首をよく出して赤スニーカー。ジーンズの上に「色テープ」まきつけで自作の装飾はいくらなんでもいかがなものか・・・。

オレの今まで生きてきた常識では、これらはことごとく「さむい」どころか相当やってしまった感のある格好ではあったが、目いっぱい詰めかけた観客の黄色い歓声を聞いてしまうと、オレの自信も鈍るというものだ。そしてなにより、今度Top Shop へ出かけたらこのようなコーディネーション(自作色テープ貼り含む)だらけになっていたとしたら、オレはすごすごとマーちゃんのアドバイスにしたがって、Topman を卒業しなければならなくなる。そうすればオレの「ライブ道」卒業にも一歩近づいてしまうのではないか、とちょっとだけさびしいキモチになってしまったのであった。

久々に音の記憶ゼロ、服装の記憶鮮明、と言うバンドであった。あまりのことに見とれて写真を撮らなかったが Flickr で当日の様子を発見。クレジットが入ってるので写真は貼り付けませんがコレがリンクです。

見た目の話の割りにお見せできるジュアルが中途半端で申し訳ない。ま、ほとんど意味のないことを長々書いてしまったが、要はこのバンド、世間の人気の割にはライブも含めて「はずれ」だったということです。たぶん、本当は彼らのスタイルやセンスと言うのは今風で悪くもないのだろうが、曲を含めてライブ全体がオレにはまったくダメだったので、全ての面でカスよばわりさせていただくこととする。ステージアクションもキツかった。以上。

Virgins

ちなみにこの写真は Flickr から。今年の Camden Crawl ('09) のもの。オレは当然見ていない。皆さんはちょっとヤな感じしないですか、コレ?オレはいやだ。もちろんこのいでたちは民間人が真似するようなものではなく、「ミュージシャン」コスチュームだが、たぶんコイツこのままで道端歩いてるとおもうよ。

同じ「人気者」でいえば、自分としては Hockey も好きではないが、まだそっちの方がましだと思う。BBCテレビで生演奏を見た限りでは。Hockey 来日中止だそうだが、この The Virgins は予定通り本邦に上陸しても、ぜひ気をつけてください。

●コメントバックできないので追記します。

コメントありがとうございます。本来ミュージシャンは服装的制約のない、つまりどんな格好をしても許される人たちなわけですが、「ライブ不合格」の烙印を押すのがふさわしい方々については「服装」もきびしくチェックしていきたい、というのがこのライブ道の方針です。自分で探してきて貼り付けておいて言うのもなんですが、何度見てもこの写真のコスチュームはあってはならないものですな。

ところで、ミュージシャンと並んで「ゲイ」の方々もどんな格好をしても許される人種だという見解を持っているのですが、われらの「マーちゃん」(カミングアウト済み)はいつもかっちょよく決まりすぎで、ちょっと自分としては不満です。

2009年5月21日 (木)

Micachu And The Shapes

<2009. 05. 14 @ Po Na Na, Brighton (Great Escape '09)>

ライブを一目見てそのバンドのファンになる、というのは、なんと言ってもライブ道の醍醐味であろう。

このところNMEに取り上げられる回数も増えてきたロンドンの3人組 Micachu And The Shapes www.myspace.com/micayomusic 先週参加した今年の Great Escape ('09) @ Brighton での大きな収穫のひとつだった。えらそうな物言いですが。

今年も例年同様、「期待して観にいったらアタリだった」バンドもいくつかあったわけだが、MySpace で音をチェックしたときはなんとも評価できなかったバンドが実際目にしたら大当たり!というのが、今年は彼らだったわけです。音は例によってオレの貧困な表現力では説明しきらないので、聴いたことの無い方はぜひ上の MySpace で。去年リリースされたアルバムは日本盤も出ているようなので、知ってる方も多いでしょうが。

このバンド、フロントに立つ Micachu のキャラクターがなんと言っても強い。これまでの女性ミュージシャンには無かった個性、どこにも分類不可能な女性ミュージシャンだといってよい。なにせオレは家に帰ってきてきてから彼らの情報を見直してみてはじめて彼女が「女性」であることを知っておどろいたほどである。

「男っぽい」というのではなく、さえない中学生男子にしか見えない風貌。ビリー・アイドルばりに口をねじって唄う歌唱法。そして芸達者なパフォーマンスと曲作りのセンスは、偏見かもしれないが、「女性ミュージシャン」というオレの既成観念を完全に超えていた。

実は今年の Great Escape は女性ミュージシャン・女性バンドだらけであった。3日間で20バンドほど見た中で、女性がフロントに出てこないバンドはほんの少しだけという結果であったのは、自分としても意外な驚きである。最近は男のコの元気が無いのかな、とも思ったが Micachu And the Shapes のようなバンドを見ると、やはり女性ミュージシャンの裾野がこれまでにくらべて格段に広がってきたことがわかる。女性ミュージシャンに対するステレオタイプなオレの考えをいましめるために彼女はあのような風貌であったのかとさえ思ったりした。

大音量だと意外とダンスフロア向きです。

Img_3255_1

@ Po Na Na

右が中坊。彼女が最初一人でステージセッティングを始めたときは、ホントにコドモに見えた。コイツらは兄弟バンドで、このぼうずは末の弟!と勝手に思ったほどである。MySpace によると彼女は1987年生まれ。22才のれっきとした成人女性でした。

今年は Glastonbury Festival にも登場予定。

2009年5月12日 (火)

The Big Pink

< 2009. 04. 25 @ Dingwalls, London (Camden Crawl '09) >

最近読んだNMEで、「The Big Pink はみ~んなとお友達」という、2ページの特集記事が載っていた。www.myspace.com/musicfromthebigpink このヒトたち、新旧とりまぜた、いろいろなミュージシャンとそれぞれ深いかかわりがあるようで、そんなネタで新人ながらも大々的に「企画モノ」として取り上げられていたわけである。

彼らはこのところ話題のエレクトロ・サイケのデュオで、どうも昔からレコードレーベルを主催して KlaxonsCrystal CastleThe Teenagers などにいち早く目をつけたり、特に Klaxons を含む何人かのミュージシャンのツアーサポートなどをしていたりするらしい。

オレはそんな背景など知らずに「サイケバンド、全てよし!」というライブ道哲学に則って観にいっただけなのであるが、今回のNMEの記事内容を事前に知っていたらすこし緊張したかもしれない。そもそもこういった「顔役」系とも思える方が、「じゃあ、おれもそろそろバンドでもやっぺか」などと、」あげなくても良い腰をあげた場合、けっこう仰々しいものになったしまったりしがちなのを知っているからである。まあ、仰々しいから必ずしも悪い、と言うわけではないのだが、なんか新人のわりに初々しさがまったく無かったりすると、積極的に行く末を見守ってあげたい!というキモチにはどうもなりづらい。

今年の Camden Crawl ('09)でオレが最後に観たバンドが彼らだったのだが、結論を言うとなかなかせっぱつまった新人感の出ているステージで、とりあえず今後成功するかどうかを傍(はた)から見ておいてあげよう、という親心の持てるようなパフォーマンスであった。彼らが、NMEに書いてあったようにある種の「業界ベテラン」だというのは、むしろ驚きで、かなり暗闇に近い照明効果や、音響的にはほとんど意味をなさないが「飾り物」としては面白い「長髪だらり」のうつむきコーラスなど、サイケバンドの演出としては『なんかいろいろがんばってるな』と、肩をたたいて励ましてやりたい気分になった。音と合わせて70点。サイケ系には点数甘いかもしれないけど。ただし、Comanechi のお姐さんがライブではドラムをたたいている、というのはNMEの記事を読むまで知らなかったので、ちょっと見逃した感はあります。暗くて見えませんでした。

もっとも彼ら、巷では、今ロンドンでもっともクールなバンド、などといわれたりしているらしいが、NMEに載っている写真をみるとほぼ全裸の状態で、手で前を隠しているひょうきんなお兄さんにしか見えないのも、意外となかなか好感が持てるところだ。「何もそんな写真を撮らなくても・・・」と思わず口をついたが、意外とそんなことが好きなキャラなのだろう。どおりで友人が多いわけである。オレはいざと言うときに脱ぎ芸ができないので友達が少ないのかもしれない、と思った。

Img_1

NME 5月2日号より記事のうち一部分。 中央が街一番のクール・ガイズである。周辺がお友達。

飲み会でこれやると、友達増えるんでしょうか?うらやましい限りです。

Img_3235_1

@ Dingwalls

今年彼らはサマソニはじめ、各地のフェスティバルでもひっぱりだこらしい。 Camden Crawl はフェスティバルシーズンの幕開けだったためか、せっかくの良質サイケにも、観客で宇宙と交信する者のすがたは意外と少なかった。ちなみにステージ前で、もっともあからさまに薬物感のある踊りを楽しんでおられたのは、邦人の若いカップルの観客であった。Comanechi のお姐さんといい、このキマリカップルといい、世界で活躍する日本人の姿を拝むのは、なかなかにたのもしいものである。(右はうつむきコーラスのかた)

● The Big Pink その2

●コメントバックできないので追記します。

応援コメント、ありがとうございます。The Big Pink はNME の翌週号にも「今最も期待できる新人10バンド」企画で一番写真が大きく載っていたので、ちまたの期待ももりあがっているようです。コーラスのおねえさんは文字通り「シューゲイザー」ですが、ギター&ボーカルのかたはけっこう普通のロックミュージシャンのようなうごきでした。

ところでサイケバンド全てよし!のライブ道ですが、音はもとより「観客のおどり(宇宙と交信)」鑑賞はエンタテイメントとしてはずせない要素です。洋の東西を問わず「違法」なものは「違法」ですが、日本のフェスティバルでもサイケ系ではこうした見せ場があるのでしょうか?ちょっと気になってます。

2009年5月 6日 (水)

Rumble Strips その2

< 2009. 04. 29 @ Fleche d'Or, Paris >

フィガロ・ジャポンという雑誌があって、皆さんもご存知だとは思うが「セレブの隠れ家的存在、パリのビストロ」とか、「パリのクリエーターのインテリア拝見」などといった、パリに住んでいるオレですら思わずパリに観光旅行に行ってしまいたくなるような、なんだか実態のなさそうな特集を常に組んでいるおしゃれさん雑誌である。基本的にUKのインディーバンドを観るためにパリまでやって来る日本の観光客は皆無なので、というかロンドンに行けばよいだけの話なので、オレのようなライブ道には最も縁遠いメディアのひとつではある。

ところがこのフランスで企業駐在員をやっていると、日本の本社からの出張者やお得意先の方々など、パリにやってくる人たちのアテンドやらお手伝いがいろいろあったりする。「最近ハヤリ(と雑誌に書いてあった)このレストランを予約してくれませんか?」とかそういう類だ。これ自体は仕事の一環だし、せっかくこのフランスまで来ている方のお役に少しでも立ちたい、というキモチは正直あるので、できるだけ積極的にサポートするように心がけている。

そんな皆さんの御用達雑誌がフィガロ・ジャポンだったりするため、少なくとも「永久保存版!まるごとパリ」などといった年に1~2回ほど出る特集号は手元においておかないと、皆様のご要望にすんなりお答えしずらいので、パリの書店で日本の定価の3倍ほど出して購入することにしているのであった。

お答えしずらい、と言ったのは一応ご本人の希望に沿いながらも、こちらとして最低限のアドバイスはしたい、と考えているからである。こちらに連絡をくれた人が、「フィガロとかに載ってたんですけど、ココにいこうかと思ってるんですが、評判どうですか?」といった手合いの問い合わせがときどきある。もちろん、オレ自身この雑誌に載っているようなレストランやコスメショップ、雑貨店などに行くことはあんまりありえないので、社内の食通のフランス人やらに聞いたりするのだが、オレ自身が活躍できる場というのもあって、「その場所はちょっといかがなものかと・・・・」というような「土地勘」に基づく助言である。

実はこうしたアドバイスの必要性を思いついたのはロンドンにいたときだ。同じくフィガロ・ジャポン(に代表される「おしゃれさん、せれぶさん」雑誌)に載っている「新進のアーチストが集まるエリア」などと紹介されているところは、実はオレが行くライブハウスエリアと結構重なったりしているのでよく分かるのだが、見た目の荒れ具合がかなり激しいエリアが少なくない。夜歩いているのも不良、もしくは気のせいで不良にしか見えない人たちだったりして、「日が暮れてからその辺に女性だけで行くときは、かなり気をつけながら歩いてくださいね。すれ違う人たちは、本当はアーティストかもしれないけど、私には道端を叫びながらよたよた歩くジャンキーにしか見えませんから」などと的確なアドバイスをして、不必要な危険を回避するように努めていた。

たしかに、お金はないけど才能(もしくは夢)がある通称アーチスト達は、家賃の安いヤバ目の場所をめがけて集まり、それがブームになると地価があがって更に若いアーチスト達はもっと別のやばい場所を目指す・・・というのは都市の法則のひとつだが、「緊張感のあるホットエリアを探索したい」という日本男児ならびに婦女子ならともかく、なんとなくセレブがいそうだからと無防備にやってくる方々には一応覚悟を促してあげるのが「土地の者」の勤めだと思うのだ。

そんなフィガロ・ジャポンの4月5日号に、また優良物件を発見してしまった。

パリの東、20区に新たにオープンした「Mama Shelter (ママ・シェルター)」なるホテル。お勧めスポットとして1ページ紹介されていた。フィリップ・スタルクさんという高名なデザイナーの手による設計で、価格もお手ごろ、というかかなり格安。これから再開発の新しいエリアとして脚光を浴びており、おススメのようである。

オレはこのホテルの場所をきわめてよく知っており、それはなぜかというと、自分自身パリで一番のライブハウスだと信じて疑わない Fleche d'Or の真向かいに位置するからである。夜な夜な自分が出没する場所なので、横に位置するケバブ屋にはマグレブの若者達がちょっとばかり不気味にたむろしていることや、明らかにそんなものを持っているはずがないこのオレにむかって「ハッパないかのう?」と聞いてくるフードをかぶった黒い人がいることや、近くの公園で見た近隣住人の95%は同じく黒い方々だっりしたことをよく知っているのである。

まあオレとしてはさほどは気にならないし、第一自分自身が不気味で近寄りがたい若作りの東洋人オヤジである可能性もある。しかし、そんなオレでも時にはちょっと緊張したりする瞬間というのがあるのは、他の観光エリアにはないパリの素顔だといってよいだろう。たしかに気のおけないカンジが好感の持てるエリアであるのは実際にそのとおりなので、このホテルに宿泊することを希望する日本の方がいても、再考を促すことはしない。だが、雑誌に書かれていたように、まるでパリの住人になったように感じられるエリア、というくだりについては、「パリの黒い住人の方々と同化してしまったように錯覚できるエリア」というように、もし今後オレに問い合わせがあったら答えたいと考えている。この「ホット・スポット」が多少軟弱になるには、もすこしだけ時間がかかりそうな気がしていたのである。

ところが。

このフィガロ・ジャポン最新パリ特集を読んで間もないつい先日、オレにとっては衝撃的な事実が明らかになった。いままでこの「ライブ道」でいろいろバンドのレビューを書いてきたが、ここ Fleche d'Or で観たものがそのうち何割かを占めるのではないかというくらい、ここにはお世話になってきた。それが予告らしい予告もないまま、先月末4月30日をもって突然閉店してしまったのである。どうも決定から間もない出来事だったようだ。

オフィシャルのアナウンスはないが、どうも話を総合すると次のようなことらしい。つまり、この「旧駅舎」を改造した、アーティスト運営のライブハウス兼クラブは防音設備がしっかりしておらず、近隣住民からの苦情が絶えなかった。それを解決するための工事には日本円で1億円くらいかかるらしく、オーナー(株主)達は協議をくりかえしたが、やっぱり「投資」はできない、という結論に。あえなく急遽閉鎖となった―。

この Fleche d'Or は何がすぐれているかと言って、まずその内外からの出演ラインナップのよさが挙げられる。本国イギリスではもっと大きなハコで演奏するバンドが、ここでは間近で観られる。今まで知らなかったセンスのよいアメリカや北欧のバンドもこの場所で観てファンになった。しかしなによりすばらしかったのは、入場料完全無料、ということだ。オレは大人なので必ずドリンクを買ったが、それにすらお金を払わなければ、1円も使わずに毎晩毎晩ライブがタダで観られるわけだ。したがってここはどうやって運営しているのかまったくの謎だったわけだが、当然ながら防音設備に1億円追加出資することは株主として難しかったのだろう。

閉店に向けて最後に背中を押したのが、向かいにオープンした Mama Shelter の宿泊客からの苦情だといううわさもある。文化施設(Fleche d'Or) 前にあるおしゃれホテル、という狙いはよかったのかもしれないが、うるさくて寝られん、と。しかも、実はこの Fleche d'Or のオーナーのメインメンバーと Mama Shelter の主要株主は同一人物で、なんとか他の出資者にも働きかけたが工事費用を捻出できなかったらしい。巨額の利益が期待できるホテルには金を出すが、事業性の低いライブハウスは見殺しになったということで、「資本主義による敗北」と書いてあったフランス人のブログもあった。見殺しだったかどうかはともかく、もし Mama Shelter のオープンが影響しているとすれば皮肉なものである。

オレはパリに比べてロンドンの方が圧倒的に好きな街ではあるが、こういった「無料ライブハウス」のような、「文化」をサポートするようにもみえる国民の姿勢や気概はえらいと思う。だが、「アーチスト」街がフィガロ・ジャポンがおすすめする街に変貌する過程では、こうしたことが発生するものなのだなあ、と思った。別なうわさでは Fleche d'Or は装いを新たに(たぶん別な場所・別な名前)で夏の終わりには再登場する、という話もでてはいるが、入場料をとるフツーのライブハウスになってしまう、という見方もあるようだ。それはそれでもしょうがないような気がするが、もしまた無料のままがんばってくれれば、そこに通うのに今まで以上に緊張を強いられても(フーディ発生率の増加、など)、オレは我慢したい、と思った。

「お金がなくともアート!」というホットスポットと、「おしゃれなエリア」は結局は相性が悪いのかもしれない。皮肉な目で見れば、Mama Shelter のあるあたりは、アーチストエリアとして確立する前にむりやりおしゃれエリアへの変貌を試み、そして崩壊してしまった、とも言える。

さて、4月29日にここで Rumble Strips が演奏する予定であることを知ってはいたし、久しぶりに観にいきたいなあなどと思ってもいたのだが、ついつい忙しさにかまけて見送ってしまった。Fleche d'Or 閉店に気が付いたのは、クローズしたまさに翌日、5月1日になってからであった。無念です。

Mamashalter_3 Mama Shelter お部屋のベッドライトは、夢見が悪そうです。(写真はホテルのHPより)

Rumble Strips その1

●コメントバックできないので、追記します。

応援コメント、ありがとうございます。ここ数回、バンドの紹介らしい紹介をまったくしていないので、お恥ずかしい限りです。次はまともなライブレポートにしようとおもってますのでよろしく。

2009年5月 3日 (日)

Golden Silvers その2

< 2009. 04. 25 @ The Black Cap, Camden Crawl '09 >

今年も Camden Crawl ('09) に行ってきました。なかなか思い出深いステージや、心に残る新人さんをいくつか観たので、あらためてレポートしてみたい。

ところで、この Camden Crawl 自体は「音楽タウン」カムデンで昔から開かれているイベントなのだが、ここ数年来、昨今のバンドブームやフェスティバル・ブームを受けてだんだん充実、というか大型化の一途をたどっている。昔は平日1日だけのイベントだったのが、2006年からは平日2日間、2007年からは週末に移動して、昨年あたりは昼間のイベントも増えきた。そしてついに今年は Round House という大バコ会場まで加わることになってしまったのである。

これまでの Camden Crawl でもビッグネームが「シークレット」で登場したり、あるいは極端に小さな会場で演奏したり、と「ライブハウス」街カムデンならではの企画がいろいろあったりはしたのだが、当日になるまで彼らがどこの会場で演奏するかはイベント参加者には知らされていなかった。しかし今年は Round House というキャパのあるコンサート会場で、Kasabian やら Yeah Yeah Yeahs、The Enemy などの有名バンドが登場すると、あらかじめ告知されていたのである。いままで存在しなかった「メインステージ」のようなものがついにこのフェスティバルにも導入された、というわけか。イベントチケットも今まで以上に発券されたに違いない。

なんだかこのイベントもずいぶんと趣の違ったものになってきたなあ、などと感慨にふけりながら今年も Chalk Farm Road という南北に走るカムデンの目抜き通りを何回も往復したのだが、基本的にオレは新人発掘というか発見が主たる目的なので、Round House でビッグネームを観ることは無い。

初日の金曜日、オレが出かけたどこの会場も比較的すいていた。何度かこのブログでも書いたとおり、15ヶ所ほどある会場(ライブハウス)は、どこもそんなに大きなキャパシティを持っていない。したがってちょっと人気の有るバンドだと入場制限待ちの列ができるのが常である。だから、毎年どのタイミングでどこに移動するかで頭を悩ませるのであった。ところが今年に限ってはおなじみの「列」が見当たらない。頭を悩ませた割にはスムースに会場から会場へと移動できたのである。

翌日の土曜日も似たような状況だった。観たいバンドはどこも「列」なしで入場できる。これはきっと Round House 効果で、みんなあの大バコに行ってしまったのに違いない。そう思って甘く見たのが失敗だった。

昨年のグラストンベリー・フェスティバル ('08) で初めてその音を聞いて、あまりに面白かったので寝そべっていたのを立ち上がり、最前列近くまで走って観にいったバンド Golden Silvers 。それからほぼ一年がたつのだが、ついにアルバムもリリースだ。実は今年の Camden Crawl でも演奏するというのでかなり楽しみにしていた。

土曜日のイベントも後半にはいり、意気揚々と彼らの出演する会場に向かったのだが、そこでみたのは今年最初にして最大の「入場制限列」であった。「しまった!」と声を上げたが完全にオレの作戦ミスだ。数百人も並んだこの列は明らかに会場のキャパシティを超えている。つまり中が一回完全に入れ替わったとしても会場には入れない勘定だ。これは完敗である。気を取り直して近くのいくつかの会場を目指したが、どこもかしこも長蛇の列だ。4件目、ようやくは入れたのは今さっきオレが出てきたばかりの会場であった。

Camden Crawl 、今年も「らしさ」は変わっていなかった。そういえば、道すがら2階建てバスの上で「地元バンド」の Madness が演奏しているのが垣間見えた。今回のイベントの一環だ。路上のゲリラライブだから観客の95%以上は Camden Crawl とは関係ない買い物客や通行人・勤め人だが、もちろんみんなこの国民的な人気者である Madness がカムデンからデビューした人たちだと知っているので大喜びだ。こういう企画ならイベントの大型化も悪くないか、とも思ったりした。

ところで Golden Silvers だが、知らないうちに人気者になっていた。今月ここパリにも来るようなのだが、これまた無念にも Great Escape (ブライトン)の日程とかぶっているので観にいけない。新曲もキャッチーでいい感じだし、今年またどこかでもう一度見ておきたいバンドだと思う。来月の グラストンベリーでも凱旋ステージを2回ほどおこなうようなので、とりあえずはそこに足を運んでみたい。

今年もフェスティバルの季節がやってきました。

Canden_crwal

Flickr から拾ってきた写真。ラウンドハウスのリストバンド交換所。

ところで Gladen Silvers の長蛇列に並びかけたとき、ライブハウスのセキュリティガードが「みなさあん、この辺に並んでいる人は45分待ちで~す。」などと何の根拠も無いことを言っていたが、オレたち以外、誰もその場を離れようとしなかったことは驚きだった。 当日のカムデンは、このイベントと無関係にいつもどおり大賑わいだった。そもそもどこのバーでも酒を飲むために皆列をなしている。Camden Crawl の観客も、一般の友人との語らいが目的のひとつなので、並んでおしゃべりができればそれで十分に見える。うまくいってバンドが見れれば大もうけ、といったところか。この点元を取ろうと(よく言えば、十分堪能しようと)、緻密に計算して動き回るオレのような日本人とくらべて、英国人はずいぶん余裕の有る週末の楽しみ方をするな、と思った。

● Golden Silvers その1

●追記: Golden Silvers 、グレートエスケープにも出演するようでした。ただほかに見たいバンドとかぶらなくもないので、やはり緻密に計算してせこく動き回るかんじでしょうか。

« 2009年4月 | トップページ | 2009年6月 »

フォト
無料ブログはココログ
2013年12月
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31