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2009年5月 6日 (水)

Rumble Strips その2

< 2009. 04. 29 @ Fleche d'Or, Paris >

フィガロ・ジャポンという雑誌があって、皆さんもご存知だとは思うが「セレブの隠れ家的存在、パリのビストロ」とか、「パリのクリエーターのインテリア拝見」などといった、パリに住んでいるオレですら思わずパリに観光旅行に行ってしまいたくなるような、なんだか実態のなさそうな特集を常に組んでいるおしゃれさん雑誌である。基本的にUKのインディーバンドを観るためにパリまでやって来る日本の観光客は皆無なので、というかロンドンに行けばよいだけの話なので、オレのようなライブ道には最も縁遠いメディアのひとつではある。

ところがこのフランスで企業駐在員をやっていると、日本の本社からの出張者やお得意先の方々など、パリにやってくる人たちのアテンドやらお手伝いがいろいろあったりする。「最近ハヤリ(と雑誌に書いてあった)このレストランを予約してくれませんか?」とかそういう類だ。これ自体は仕事の一環だし、せっかくこのフランスまで来ている方のお役に少しでも立ちたい、というキモチは正直あるので、できるだけ積極的にサポートするように心がけている。

そんな皆さんの御用達雑誌がフィガロ・ジャポンだったりするため、少なくとも「永久保存版!まるごとパリ」などといった年に1~2回ほど出る特集号は手元においておかないと、皆様のご要望にすんなりお答えしずらいので、パリの書店で日本の定価の3倍ほど出して購入することにしているのであった。

お答えしずらい、と言ったのは一応ご本人の希望に沿いながらも、こちらとして最低限のアドバイスはしたい、と考えているからである。こちらに連絡をくれた人が、「フィガロとかに載ってたんですけど、ココにいこうかと思ってるんですが、評判どうですか?」といった手合いの問い合わせがときどきある。もちろん、オレ自身この雑誌に載っているようなレストランやコスメショップ、雑貨店などに行くことはあんまりありえないので、社内の食通のフランス人やらに聞いたりするのだが、オレ自身が活躍できる場というのもあって、「その場所はちょっといかがなものかと・・・・」というような「土地勘」に基づく助言である。

実はこうしたアドバイスの必要性を思いついたのはロンドンにいたときだ。同じくフィガロ・ジャポン(に代表される「おしゃれさん、せれぶさん」雑誌)に載っている「新進のアーチストが集まるエリア」などと紹介されているところは、実はオレが行くライブハウスエリアと結構重なったりしているのでよく分かるのだが、見た目の荒れ具合がかなり激しいエリアが少なくない。夜歩いているのも不良、もしくは気のせいで不良にしか見えない人たちだったりして、「日が暮れてからその辺に女性だけで行くときは、かなり気をつけながら歩いてくださいね。すれ違う人たちは、本当はアーティストかもしれないけど、私には道端を叫びながらよたよた歩くジャンキーにしか見えませんから」などと的確なアドバイスをして、不必要な危険を回避するように努めていた。

たしかに、お金はないけど才能(もしくは夢)がある通称アーチスト達は、家賃の安いヤバ目の場所をめがけて集まり、それがブームになると地価があがって更に若いアーチスト達はもっと別のやばい場所を目指す・・・というのは都市の法則のひとつだが、「緊張感のあるホットエリアを探索したい」という日本男児ならびに婦女子ならともかく、なんとなくセレブがいそうだからと無防備にやってくる方々には一応覚悟を促してあげるのが「土地の者」の勤めだと思うのだ。

そんなフィガロ・ジャポンの4月5日号に、また優良物件を発見してしまった。

パリの東、20区に新たにオープンした「Mama Shelter (ママ・シェルター)」なるホテル。お勧めスポットとして1ページ紹介されていた。フィリップ・スタルクさんという高名なデザイナーの手による設計で、価格もお手ごろ、というかかなり格安。これから再開発の新しいエリアとして脚光を浴びており、おススメのようである。

オレはこのホテルの場所をきわめてよく知っており、それはなぜかというと、自分自身パリで一番のライブハウスだと信じて疑わない Fleche d'Or の真向かいに位置するからである。夜な夜な自分が出没する場所なので、横に位置するケバブ屋にはマグレブの若者達がちょっとばかり不気味にたむろしていることや、明らかにそんなものを持っているはずがないこのオレにむかって「ハッパないかのう?」と聞いてくるフードをかぶった黒い人がいることや、近くの公園で見た近隣住人の95%は同じく黒い方々だっりしたことをよく知っているのである。

まあオレとしてはさほどは気にならないし、第一自分自身が不気味で近寄りがたい若作りの東洋人オヤジである可能性もある。しかし、そんなオレでも時にはちょっと緊張したりする瞬間というのがあるのは、他の観光エリアにはないパリの素顔だといってよいだろう。たしかに気のおけないカンジが好感の持てるエリアであるのは実際にそのとおりなので、このホテルに宿泊することを希望する日本の方がいても、再考を促すことはしない。だが、雑誌に書かれていたように、まるでパリの住人になったように感じられるエリア、というくだりについては、「パリの黒い住人の方々と同化してしまったように錯覚できるエリア」というように、もし今後オレに問い合わせがあったら答えたいと考えている。この「ホット・スポット」が多少軟弱になるには、もすこしだけ時間がかかりそうな気がしていたのである。

ところが。

このフィガロ・ジャポン最新パリ特集を読んで間もないつい先日、オレにとっては衝撃的な事実が明らかになった。いままでこの「ライブ道」でいろいろバンドのレビューを書いてきたが、ここ Fleche d'Or で観たものがそのうち何割かを占めるのではないかというくらい、ここにはお世話になってきた。それが予告らしい予告もないまま、先月末4月30日をもって突然閉店してしまったのである。どうも決定から間もない出来事だったようだ。

オフィシャルのアナウンスはないが、どうも話を総合すると次のようなことらしい。つまり、この「旧駅舎」を改造した、アーティスト運営のライブハウス兼クラブは防音設備がしっかりしておらず、近隣住民からの苦情が絶えなかった。それを解決するための工事には日本円で1億円くらいかかるらしく、オーナー(株主)達は協議をくりかえしたが、やっぱり「投資」はできない、という結論に。あえなく急遽閉鎖となった―。

この Fleche d'Or は何がすぐれているかと言って、まずその内外からの出演ラインナップのよさが挙げられる。本国イギリスではもっと大きなハコで演奏するバンドが、ここでは間近で観られる。今まで知らなかったセンスのよいアメリカや北欧のバンドもこの場所で観てファンになった。しかしなによりすばらしかったのは、入場料完全無料、ということだ。オレは大人なので必ずドリンクを買ったが、それにすらお金を払わなければ、1円も使わずに毎晩毎晩ライブがタダで観られるわけだ。したがってここはどうやって運営しているのかまったくの謎だったわけだが、当然ながら防音設備に1億円追加出資することは株主として難しかったのだろう。

閉店に向けて最後に背中を押したのが、向かいにオープンした Mama Shelter の宿泊客からの苦情だといううわさもある。文化施設(Fleche d'Or) 前にあるおしゃれホテル、という狙いはよかったのかもしれないが、うるさくて寝られん、と。しかも、実はこの Fleche d'Or のオーナーのメインメンバーと Mama Shelter の主要株主は同一人物で、なんとか他の出資者にも働きかけたが工事費用を捻出できなかったらしい。巨額の利益が期待できるホテルには金を出すが、事業性の低いライブハウスは見殺しになったということで、「資本主義による敗北」と書いてあったフランス人のブログもあった。見殺しだったかどうかはともかく、もし Mama Shelter のオープンが影響しているとすれば皮肉なものである。

オレはパリに比べてロンドンの方が圧倒的に好きな街ではあるが、こういった「無料ライブハウス」のような、「文化」をサポートするようにもみえる国民の姿勢や気概はえらいと思う。だが、「アーチスト」街がフィガロ・ジャポンがおすすめする街に変貌する過程では、こうしたことが発生するものなのだなあ、と思った。別なうわさでは Fleche d'Or は装いを新たに(たぶん別な場所・別な名前)で夏の終わりには再登場する、という話もでてはいるが、入場料をとるフツーのライブハウスになってしまう、という見方もあるようだ。それはそれでもしょうがないような気がするが、もしまた無料のままがんばってくれれば、そこに通うのに今まで以上に緊張を強いられても(フーディ発生率の増加、など)、オレは我慢したい、と思った。

「お金がなくともアート!」というホットスポットと、「おしゃれなエリア」は結局は相性が悪いのかもしれない。皮肉な目で見れば、Mama Shelter のあるあたりは、アーチストエリアとして確立する前にむりやりおしゃれエリアへの変貌を試み、そして崩壊してしまった、とも言える。

さて、4月29日にここで Rumble Strips が演奏する予定であることを知ってはいたし、久しぶりに観にいきたいなあなどと思ってもいたのだが、ついつい忙しさにかまけて見送ってしまった。Fleche d'Or 閉店に気が付いたのは、クローズしたまさに翌日、5月1日になってからであった。無念です。

Mamashalter_3 Mama Shelter お部屋のベッドライトは、夢見が悪そうです。(写真はホテルのHPより)

Rumble Strips その1

●コメントバックできないので、追記します。

応援コメント、ありがとうございます。ここ数回、バンドの紹介らしい紹介をまったくしていないので、お恥ずかしい限りです。次はまともなライブレポートにしようとおもってますのでよろしく。

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コメント

いつも日本から読ませていただいてます。
知らないバンドがいつも面白く紹介されてて、
参考になります。
いつも楽しみです。

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